SAFとは何かを徹底解説:持続可能な航空燃料の仕組みと未来

「SAF」という言葉を目にする機会が増えていませんか。ニュースや企業のプレスリリース、空港の案内板など、さまざまな場面でこの3文字を見かけるようになりました。しかし、SAFは実に多くの意味を持つ略語であり、文脈によってまったく異なるものを指します。なかでも近年、世界的に最も注目を集めているのが「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」としてのSAFです。航空業界が排出するCO2は世界全体の約2〜3%を占めるとされており、この課題に対する切り札として期待されています。個人的にエネルギー分野の情報を追いかけてきた中で感じているのは、SAFへの関心がここ数年で急速に高まっているということです。
この記事で学べること
- SAFは114以上の意味を持つ略語だが、現在最も注目されるのは持続可能な航空燃料である
- SAFはライフサイクル全体で従来燃料比CO2を最大80%削減できる可能性がある
- 現行規制では従来のジェット燃料と50対50の混合が上限とされている
- 日本政府は2030年までに国内航空燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げている
- SAFの製造コストは従来燃料の2〜5倍だが、技術革新で価格差は縮小傾向にある
SAFとは何か:多義的な略語の全体像
SAFという略語は、実は114以上もの異なる意味を持つことが確認されています。分野によって指す内容がまったく異なるため、まずはその全体像を把握しておくことが大切です。
主な意味を整理すると、以下のようになります。
SAFの主な意味一覧
※バーの長さは現在の検索・メディア注目度のイメージです
このように多くの意味がありますが、現在のグローバルな文脈で「SAF」と言えば、ほとんどの場合「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」を指します。本記事では、この持続可能な航空燃料としてのSAFを中心に、その仕組み、原料、環境効果、そして日本と世界の動向を詳しく解説していきます。
持続可能な航空燃料SAFの基本的な仕組み

SAFの定義と従来燃料との違い
SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは、化石燃料ではなく、再生可能な原料から製造される航空燃料のことです。簡単に言えば、「植物や廃棄物などから作られたジェット燃料」です。
ここで重要なのは、SAFは「ドロップイン燃料」であるという点です。ドロップイン燃料とは、既存のエンジンや燃料供給インフラをそのまま使える燃料のことを意味します。つまり、航空機のエンジンを改造する必要がなく、現在の空港の給油設備もそのまま活用できます。
これは航空業界にとって非常に大きなメリットです。電気自動車のように充電インフラを一から構築する必要がないため、導入のハードルが比較的低いと言えます。
SAFの主な原料(フィードストック)
SAFを製造するための原料は「フィードストック」と呼ばれ、多岐にわたります。
廃食用油(UCO:Used Cooking Oil)は、現在最も広く使われているフィードストックです。レストランや食品工場から回収された使用済みの油を化学処理し、ジェット燃料に変換します。
農業廃棄物も重要な原料です。トウモロコシの茎や麦わら、サトウキビの搾りかすなど、食料生産の副産物を活用します。食料と競合しない点が評価されています。
藻類(アルジー)は、将来的に最も有望視されている原料の一つです。光合成によってCO2を吸収しながら成長するため、カーボンニュートラルに近い燃料生産が期待されています。
都市固形廃棄物(MSW)、つまり家庭ゴミからもSAFを製造できます。ゴミ処理問題と航空燃料の課題を同時に解決できる可能性があります。
そして近年注目を集めているのが、DAC(Direct Air Capture:大気直接回収)技術です。空気中のCO2を直接回収し、水素と合成してSAFを製造する方法で、「e-fuel(合成燃料)」とも呼ばれます。理論上はカーボンネガティブも実現可能ですが、現時点ではコストが非常に高いという課題があります。
SAFの製造プロセス
SAFの製造方法はいくつかの技術的アプローチがあり、ASTM International(米国試験材料協会)によって認証された製造経路が複数存在します。
代表的な製造方法を紹介します。
HEFA(水素化処理エステル・脂肪酸)
廃食用油や動物性脂肪を水素処理して製造。現在最も商業化が進んでいる方法です。
FT合成(フィッシャー・トロプシュ法)
バイオマスや都市ゴミをガス化し、触媒反応で液体燃料に変換する技術です。
Power-to-Liquid(PtL)
再生可能エネルギーで水を電気分解し、CO2と反応させて合成燃料を作る最先端技術です。
現在の規制では、SAFは従来のジェット燃料と最大50対50の比率でブレンドして使用することが義務付けられています。これはASTM規格に基づく安全基準であり、100%SAFでの飛行に向けた認証作業が現在進められている段階です。
SAFの環境効果とCO2削減ポテンシャル

SAFが注目される最大の理由は、その温室効果ガス削減効果にあります。
ICAO(国際民間航空機関)の分析によると、SAFはライフサイクル全体で従来のジェット燃料と比較してCO2排出量を最大80%削減できるとされています。
「ライフサイクル全体」というのがポイントです。SAFを燃焼させた際に排出されるCO2の量自体は、従来燃料とほぼ同じです。しかし、原料となる植物が成長過程でCO2を吸収していること、また廃棄物を原料にすることで新たな化石資源の採掘を回避できることを考慮すると、トータルでの排出量が大幅に減少するという考え方です。
ただし、この削減率はフィードストックや製造方法によって大きく異なります。
原料別CO2削減率の目安
※数値は製造条件やエネルギー源により変動します。ICAOおよび各種LCA研究に基づく概算値。
DAC(大気直接回収)技術を使ったPtL方式は理論上最も高い削減率を実現できますが、現時点では大量の再生可能エネルギーを必要とするため、コスト面での課題が残っています。
航空業界の脱炭素化において、SAFが特に重要視される理由があります。それは、航空機は電動化や水素化が技術的に非常に難しい輸送手段だからです。自動車のようにバッテリーで飛ぶことは、少なくとも長距離路線では現在の技術では実現困難です。そのため、既存のエンジン技術を活かしながらCO2を削減できるSAFが、現実的かつ即効性のある解決策として位置づけられています。
SAFの課題とコスト面の現実

SAFには大きな可能性がある一方で、普及に向けた課題も存在します。正直に整理しておく必要があるでしょう。
メリット
- 既存インフラをそのまま活用できる
- ライフサイクルCO2を最大80%削減
- エンジン改造が不要(ドロップイン)
- 廃棄物の有効活用につながる
- 即座に導入可能な技術である
デメリット
- 従来燃料の2〜5倍のコストがかかる
- 現在の生産量は世界の航空燃料需要の1%未満
- フィードストックの安定確保が課題
- 50%ブレンド上限の規制がある
- 航空券価格への転嫁が避けられない
最も大きな障壁はコストです。SAFの製造コストは従来のジェット燃料と比較して2倍から5倍程度とされており、この価格差が大規模な普及を妨げています。
ただし、この状況は変わりつつあります。各国政府による補助金や税制優遇、カーボンクレジット制度の整備、そして製造技術の進歩により、コスト差は徐々に縮小する方向に向かっています。経験上、エネルギー技術のコスト低減は一定の生産規模を超えると加速する傾向があり、SAFもその段階に近づいていると考えられます。
世界と日本のSAF政策動向
国際的な政策フレームワーク
ICAO(国際民間航空機関)は、国際航空分野のCO2排出削減に向けた枠組みとして「CORSIA(国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム)」を策定しています。この中でSAFは中核的な役割を担うと位置づけられており、2050年までにネットゼロ排出を達成するという長期目標が設定されています。
EUでは「ReFuelEU Aviation」規制により、2025年から空港で供給される航空燃料に一定割合のSAFを含めることが義務化されます。この割合は段階的に引き上げられ、2050年には70%に達する計画です。
米国ではインフレ抑制法(IRA)の中でSAF製造者に対する税額控除が導入されており、1ガロンあたり最大1.75ドルの優遇措置が設けられています。
日本におけるSAFの取り組み
日本政府は、2030年までに国内航空会社が使用する燃料の10%をSAFに置き換えるという目標を掲げています。この目標は「グリーン成長戦略」の一環として位置づけられています。
国内の動きとしては、ANAやJALといった大手航空会社がSAFの調達・使用に積極的に取り組んでいます。また、国内でのSAF製造に向けた取り組みも進んでおり、石油元売り各社やスタートアップ企業が製造プラントの建設を計画しています。
日本にとって特に重要なのは、エネルギー安全保障の観点です。従来のジェット燃料は中東からの原油輸入に依存していますが、SAFは国内の廃棄物やバイオマス発電と共通するバイオマス資源を活用できるため、エネルギー自給率の向上にも貢献する可能性があります。
SAFと他の航空脱炭素化技術の比較
航空業界の脱炭素化にはSAF以外にも選択肢があります。それぞれの特徴を理解しておくと、SAFの立ち位置がより明確になります。
水素航空機は、水素を燃料として使用する航空機です。燃焼時にCO2を排出しないという大きなメリットがありますが、水素の貯蔵に必要な極低温タンクの開発、空港インフラの大規模な改修、そして航空機の抜本的な再設計が必要です。エアバスが2035年の実用化を目指していますが、長距離路線への適用にはさらに時間がかかると見られています。
電動航空機は、バッテリーで飛ぶ航空機です。短距離の小型機では実用化が始まっていますが、バッテリーの重量とエネルギー密度の問題から、中・長距離路線への適用は現在の技術では困難です。
運航効率の改善も重要な取り組みです。飛行ルートの最適化、機体の軽量化、エンジン効率の向上などにより、年間1〜2%程度の燃費改善が続いていますが、これだけでは2050年のネットゼロ目標には到達できません。
こうした比較から見えてくるのは、SAFは「今すぐ大規模に導入できる唯一の脱炭素化手段」であるということです。水素や電動化は将来的に重要な役割を果たす可能性がありますが、現時点では技術的な成熟度と実用性においてSAFが最も現実的な選択肢と言えます。
この航空分野における脱炭素化の取り組みは、SDGsの目標とも深く関連しており、特に目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)や目標13(気候変動に具体的な対策を)に直結する取り組みです。
SAFの将来展望と商業化のタイムライン
SAFの将来を考える上で、いくつかの重要なマイルストーンがあります。
現実的には、2030年の目標達成にもかなりの努力が必要です。すべてのケースに適用できるわけではありませんが、過去の再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電)の普及パターンを見ると、政策的な後押しと技術革新が重なった時に急速な普及が起こる傾向があります。SAFもその臨界点に近づいている可能性があります。
また、SAFの普及は航空業界だけの問題ではありません。火力発電からの転換と同様に、化石燃料依存からの脱却という大きな社会変革の一部として捉える必要があります。さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、サプライチェーンの最適化やフィードストックの効率的な調達が可能になることも、SAF普及の追い風となるでしょう。
SAFが私たちの生活に与える影響
「SAFの普及で航空券は高くなるのか?」
これは多くの方が気になるポイントだと思います。
現時点での試算では、SAFの使用による航空券価格への上乗せは、路線や混合比率によって異なりますが、数百円から数千円程度とされています。例えば、国内線で10%のSAFブレンドが実現した場合、片道あたり数百円程度の上昇にとどまる見込みです。
一方で、SAFの普及は新たなビジネスチャンスも生み出しています。廃食用油の回収事業、バイオマス原料の供給、SAF製造プラントの建設・運営など、関連産業の裾野は広がりつつあります。Society 5.0の実現に向けた技術革新の一つとして、SAFのサプライチェーン全体がスマート化されていく未来も見えてきています。
SAFのその他の意味と使われ方
冒頭で触れたように、SAFには持続可能な航空燃料以外にも多くの意味があります。文脈に応じて正しく理解するために、主要な意味を簡潔に紹介しておきます。
Singapore Armed Forces(シンガポール軍)は、シンガポール共和国の国防を担う軍事組織です。陸・海・空の三軍で構成され、東南アジアで最も近代化された軍隊の一つとして知られています。
System Authorization Facilityは、IBMのメインフレームシステムにおけるセキュリティ管理機能です。ユーザーのアクセス権限を管理し、システムリソースへの不正アクセスを防止する役割を果たします。
Society of American Foresters(アメリカ林学会)は、1900年に設立された林業・森林科学の専門家団体です。森林の持続可能な管理に関する研究や教育を推進しています。
Structural Adjustment Facility(構造調整ファシリティ)は、IMF(国際通貨基金)が開発途上国向けに提供していた融資制度です。経済構造改革を条件とした低利融資として機能していました。
このように、SAFという略語を見かけた際は、その文脈を確認することが重要です。ビジネスや環境の文脈であれば持続可能な航空燃料、IT分野であればIBMのセキュリティ機能、軍事の文脈であればシンガポール軍を指している可能性が高いでしょう。
よくある質問(FAQ)
SAFは従来のジェット燃料と安全性に違いはありますか
SAFはASTM International(米国試験材料協会)の厳格な規格認証を受けており、安全性は従来のジェット燃料と同等です。化学的な性質もほぼ同じであるため、エンジンの性能や飛行安全性に影響を与えることはありません。現在のブレンド上限(50%)も安全基準に基づくものであり、100%SAFでの飛行認証に向けた試験も順調に進んでいます。
個人としてSAFの普及に貢献できることはありますか
いくつかの航空会社では、旅客が追加料金を支払ってSAFの使用を支援する「SAFプログラム」を提供しています。また、企業のCSR活動としてSAFクレジットを購入する動きも広がっています。日常生活では、廃食用油を適切に回収に出すことも、間接的にSAFの原料確保に貢献します。
SAFの普及で航空券はどのくらい高くなりますか
SAFの混合比率やコスト状況によりますが、現時点の試算では10%ブレンドの場合、片道あたり数百円から千円程度の上昇と見込まれています。ただし、製造技術の進歩や政府の補助金政策によってコスト差は縮小傾向にあり、将来的には価格への影響はさらに小さくなると期待されています。
日本国内でSAFを使ったフライトに乗ることはできますか
はい、ANAやJALなどの国内大手航空会社は、すでにSAFを混合した燃料でのフライトを実施しています。ただし、現時点ではすべてのフライトでSAFが使用されているわけではなく、また乗客が特定のSAFフライトを選択できる仕組みは一般的ではありません。今後、SAFの供給量が増加するにつれて、より多くのフライトでSAFが使用されるようになると見込まれています。
SAFは本当に環境に良いのですか。批判的な意見はありますか
SAFに対しては、いくつかの批判的な指摘もあります。例えば、フィードストックの確保が食料生産と競合する可能性、製造過程でのエネルギー消費、そしてライフサイクル分析の前提条件によって削減率が大きく変わるという指摘です。また、SAFの普及が「飛行機に乗り続けても良い」という免罪符になり、航空需要の抑制が進まなくなるという懸念もあります。これらの課題を認識した上で、総合的な脱炭素化戦略の一部としてSAFを位置づけることが重要です。
まとめ
SAFは多義的な略語ですが、現在最も注目されているのは「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」としての意味です。化石燃料に代わる再生可能な原料から製造され、既存のインフラをそのまま活用できるドロップイン燃料として、航空業界の脱炭素化における最も現実的な解決策と位置づけられています。
ライフサイクル全体でCO2を最大80%削減できるポテンシャルを持ちながら、コストや供給量の課題も残されています。しかし、世界各国の政策的後押しと技術革新により、その課題は着実に解消に向かっています。
日本においても2030年の10%目標に向けた取り組みが加速しており、私たちが飛行機に乗る際の燃料が徐々にSAFに置き換わっていく未来は、すでに始まっています。航空業界だけでなく、廃棄物処理、農業、エネルギー産業など幅広い分野に波及効果をもたらすSAFの動向は、今後も注目に値するテーマです。